謂れにまつわるエトセトラ

着物に使われている技法は様々です。
ざっと上げても唐織、経錦、貫錦、絣織、お召、友禅、紅型、ロウケツ、型染めなどはすぐに思いつきます。
これらは古くから伝わってきた伝統とされています。
しかしながらその謂れや出自については幾つかの説が存在する場合もあります。

仕事を始めた時に「絞りはお洒落のものだから本来は振袖などの礼装には向かない」と言う呉服屋がいました。
「へぇそうなのか」と思っていましたが、京都の絞り問屋に行った時には「絞りは古くから晴れの衣装に使われていたおめでたいものなのです」という説明を聞きました。
確かに江戸時代の豪商が息女のために作った総絞りの振袖がありますが、その説明書きには「晴れ着として使用した」という但し書きがありました。

さてどちらが正しいのか、という疑問を持った私は幾つかの文献を読んだのですが、文献によって「洒落物」「晴れ着」の意見が違っています。
さらに調べましたが結果は同じです。

そうしてある程度の所まで調べた所で、とりあえずどちらの謂れが本当なのかという事は据え置く事にしました。
歴史が謂れがどうであれ、絞りの技法を使ったものでも洒落物もあれば礼装もあります。
そして何より自分がその時に扱っている品物がどうなのかの方が大切だと思ったからです。

振袖(松の文様の中を絞っています)

小紋(絞りで矢羽の柄を染めています)

絞りについて未だにどちらが正しいのかは解りませんが、考えるに公家、武家、豪商などを対象にして作ったものと、庶民向けに作ったものでは手の掛け方や格が違った可能性があります。
よって「どちらとも言える」というのが私の説になっています。