前回のレポート に引き続き、今回は先日のセミナーで伺った「菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)」の衣装のおはなしを紹介します。
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江戸時代の歌舞伎の公演は1日掛かりで上演されました。
現代では往時の形式で上演する事は稀で演目の中で盛り上がる場面やクライマックスを選んでいます。
各演目の人気のある場面(段・場・幕など)には通称がついていて、例えば「菅原伝授手習鑑 ~ 車引 ~」で言えば「菅原伝授手習鑑」という演目の「車引」という場面の事を指しています。
「車引」の場面では梅王丸、松王丸、桜丸の三つ子の兄弟が出てきます。
梅王丸と桜丸の主君は菅丞相(菅原道真)、対する松王丸の主君は藤原時平(しへい)です。
この前段で菅丞相は藤原時平の陰謀により大宰府に流されており、時平の牛車を見掛けた梅王丸と桜丸は時平に詰め寄らんと立ちはだかります。
その前に立ったのが兄弟の松王丸。
三つ子でありながら事情で対立する事となった兄弟の図が物語を盛り上げています。
熱血漢を表す赤い隈取をした3人の着物を見てると、それぞれの名にちなんで梅、松、桜の柄になっています。
また袴は童子格子という大ぶりな格子文様で、寸法も少し小さめです。
こうして3人がまだ若々しさの中に幼さも残る血気盛んな若者であることを表しています。
この後の段で桜丸は切腹して果てますが、その成り行きも美しも儚く散る桜を連想させるものです。
こうして演技、声色、仕草、化粧だけでなく衣装の点からも登場人物の人物像を表しているのが解ります。
最後の段となる「寺子屋」では菅丞相の子供
菅秀才(かんしょうさい)を巡る話です。
菅秀才を匿う菅丞相の元部下 武部源蔵(たけべげんぞう)は時平から菅秀才の首を要求されます。
寺子屋を営む武部源蔵は生徒の中から身代わりを選び出そうとしますが、どの生徒も田舎の子供でとても貴族の子息には見えません。
悩む武部源蔵の前にその日から入学した小太郎という子供が挨拶に来ます。
利発で品のある小太郎を身代わりに決めた武部源蔵は、小太郎の首を刎ねて見分役の松王丸の前に出します。
この時の松王丸の衣装は松に「雪持」の衣裳です。
松王丸が検分を終えて立ち去ると小太郎の母 千代がやって来ます。
武部源蔵は千代を口封じのために殺害しようとしますが、その刹那我が子の最後を尋ねます。
千代は松王丸の妻で、小太郎は息子です。
松王丸は管秀才を救うために小太郎を身代わりにするよう一計を案じたのでした。
松王丸の着ていた雪の積もった松の柄は、重く悲痛な決意の表れでした。
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この様なおはなしをおくださんに一通りのして頂き、感心する事しきりでした。
参加されていた皆様も同様だった様で、とても良かったと感激していらっしゃいました。
「また次回も是非!」という声を多数頂いておりますので、また企画していきたいと思います。
おくださん、ご参加頂いた皆様、真にありがとうございました。